予告編という映画/レモンエアライン1021便
2015.10.21
大きな映画館、客席はまばらだ。
あたりさわりのないラウンジ・ミュージックが、小さな音で鳴っている。
暖色系のダウンライトに照らされた、
通路を行き来するカップルたちは影絵のようだ。
斜め前からポップコーンのバターの香り。(少しうらやましい)
誰かのペプシコーラの氷のシャカシャカは、
海の底で聴いているような澄んだ音。
隣の女性二人は、なにやら会社の噂話で盛り上がっている。
笑い声が大きい。映画がはじまったら静かな人になってくれと、祈る。
突然、照明が暗くなる。
予告もなく予告編がはじまる。
通路に映る影絵の動きがはやくなる。(けっこう席がうまったようだ)
全米が震えたり、某新聞社が絶賛したり、
次から次に大本命の予告編が迫ってくる。
頭の中がクルクルと回転しはじめる。
つい好みじゃなさそうな映画にも反応してしまう。
「あ、これ観たい…。」
予告編とは、未来が約束された一本の映画。
ジブンがアクションを起こせば、
まだ見ぬ未来へ連れて行ってくれる。
照明が真っ暗になる。
緞帳が左右に開く。
隣の女性たちも無言になった。(この一瞬の緊張感がすき)
本編のタイトルが、ゆっくりとあらわれた。
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◎レモンエアラインが本になりました。
コチラのスペシャルサイトもごらんくださいませ。http://lemonairline.com/
シラスアキコ(文筆家)
クリエイティブユニット「color/カラー」(www.color-81.com)の
コピーライター・クリエイティブディレクターとして活動。
「モノ語りのあるモノづくり」を大切に、
企業のブランディングから商品開発、プロダクトデザインの企画、
広告制作、ラジオCMなどを手がける。
60年代の日本映画とフランス映画、赤ワインが好物。
*レモンエアラインは、毎週水曜日に出航です。
こころがふうわりと浮遊する軽やかなじかんを、お楽しみください。*