「コルシア書店の仲間たち」
2020.12.09
はじめて須賀敦子さんの文章に触れました。
「コルシア書店の仲間たち」
29歳から13年間を過ごしたイタリアでの生活について、遥か30年の時を経てこの文章が生まれています。
書くためには、その年月が必要だったのでしょう
とてつもなく大きな影響を及ぼした時期の事柄であればあるほど
自分のなかでもそれを整理するには、多くの時間がかかるのだと感じました。
1950年代のイタリア、ミラノで起きていたこと。
そこに暮らすひとびとの感情が、しみじみとした文章で沁みてくる。
―私は、パパがユダヤ人だということを、ずっと知らなかったのよ。パパは戦争中、あんまりこわい目にあったものだから、娘にはなにも知らせないことにしたのよ。そのことを私が知ったのも、まったくの偶然だった。ある日、パパがいない食卓で、私がともだちのことを、ユダヤ人のブタが、っていった。そしたら、ママが突然、こわい顔して、ニコレッタ、それはないでしょう。あなたのお父さんはユダヤ人なのよ、って言った。そんな教えかたってないでしょう。ねぇ、そんなひどい教えかたないでしょう。高校生だった私は、世の中が真っ暗になったみたいで、しばらくは、ぼんやりしていた。