「ソラとハナ」弥生2024
2024.03.10
(ハナノヒト太田瑞穂さんによる月に一度の連載です)
弥生。
草木生い茂る月、弥生。街を歩くと梅の香りや沈丁花の香りに春だなあと嬉しくなる季節ですね。お隣りの家の梅の木も今年は沢山花をつけ、様々な鳥が遊びに来て、私の住む蛙小路も晴れた日は賑やかです。そのドンツキにある我が家の猫の額ほどの庭はパンジーとビオラ、ガーデンシクラメンが花盛り。球根植物はムクっと芽を出して暖かい春の日差しを待っているようです。庭に出るたびに、鉢植えをながめて「んん~、かわいいね~、いい色だね~、おおっ、花が終わったね~」と言いながらプチプチ花ガラをつみ楽しくなって、気持ちが軽くなるんだからお気楽な性格です。
さあ、お花見の季節。河津桜が綺麗ですよ~とか、今年の開花予想はとニュースのお天気コーナーで紹介されていますね。青空に桜、花曇りの桜、上を向いて歩く人が多い季節に、ぐっと目線をさげて~、ハイもっと下げて~、地面まで下げて~と私は路上で下を見て歩いてしまいます。そこに咲くのはスミレ。桜の咲く頃、土手や緑道、路地裏のコンクリートの隙間、駐車場の片隅、よく観察すると咲いているんですよ、スミレの花。
日本には変種や色変わりも含めて学名があるものが200種以上あると言われています。私の猫の額ほどの庭も蛙小路も隣の庭友マダムの庭にも、路地を出た先のおばあちゃまの家の玄関先にもいろいろなスミレが咲きます。あっちは白いスミレ、我が家は濃い紫と淡い紫、こっちは葉の形が違うなあと観察したり、しゃがみこんで写真を撮ったり。かといって調べないんですよね、雑だから・・・。ただただ、春のスミレ観察は面白くてやめられません。
スミレという名前は、その花の形が「墨入れ(大工さんの使う墨ツボ」に似ているからという説もあるのですが(かの牧野先生説)、万葉集には「須美礼」と宛て字で記されているのだそうです。墨ツボからきているというのはちょっと腑に落ちないのですよね。万葉集の時代からある植物なのになあ。
そんな私のもやもやした気持ちを古本屋でみつけた中村浩先生の「植物名の由来」という本が解決してくれました。「隈取紙(すみとりがみ)を折りたたんで作ったスミイレ・スミイリと呼ばれた古代の武者の旗印の色(白や紫)と形(スミレの蕾をイメージできる)が似ているのでここに由来しているのではないか。」とのこと。この旗印の図をみたら、おお~っとなりました。そして中村先生も同じもやもやを感じていらしたと感動。
夏目漱石の句に詠まれた「小さき」花ですが、春の足元に咲いていますので探してみてくださいね。