クリップ・トリップ/レモンエアライン0508便
2013.05.08
わたしはクリップ。
銀色に輝くちいさなクリップです。
ある雨の日、
ひげのおじいさんが営んでいる文房具店で、
制服を着たまつげの長い女の子に選ばれました。
わたしは彼女のためにたいそう働きました。
戻ってきた答案用紙の束などを、
銀色のからだを精一杯使って留めました。
希望通りの女子校に合格したときはほっとしましたわ。
それからわたしは、
いろんな方の元へ渡っていきました。
ここでは言えない重要書類も留めたんですよ。
有名政治家の秘書のカバンは、
とても窮屈でした。
パリに渡ったこともあります。
背の高い男性と一緒でした。
彼が撮ったエッフェル塔の写真と、
ラブレターを挟む役割をしたのです。
「今度キミとここに来たい」って書いてありましたわ。
わたしはエアメールで、
1週間後には帰国しましたけれど。
若いお母さんが、
小さな娘さんのために、
わたしとわたしのお友達をつないで
首飾りをつくってくれたのは、
とてもロマンチックだった。
あぁごめんなさい。
話が長くなってしまいました。
そうそう。
わたしがお伝えしたかったのは、
あなたの目の前にあるクリップ。
実はわたしなんですの。
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シラスアキコ(コラムニスト)
クリエイティブユニット「color/カラー」(www.color-81.com)の
コピーライター・クリエイティブディレクターとして活動。
「モノ語りのあるモノづくり」を大切に、
企業のブランディングから商品開発、プロダクトデザインの企画、
広告制作、ラジオCMなどを手がける。
60年代の日本映画とフランス映画、赤ワインが好物。
*レモンエアラインは、毎週水曜日に出航です。
こころがふうわりと浮遊する軽やかなじかんを、お楽しみください。*