アイスダンス/レモンエアライン0710便
2013.07.10
ペンギンのジャックは、
アイスキャンディーを齧りながら、
氷の上をとぼとぼと歩いています。
彼は首をかしげたり、
立ち止まって空を見上げたと思ったら、深いため息。
いったいどうしたの。
ジャックは、小さなくちばしがキュートなサリーのことを考えていました。
「今夜のダンスパーティに誘いたいなぁ。でも僕なんか…。」
サリーはみんなの人気者。ジャックは完全に気後れしていました。
3本目のアイスキャンディーを食べ終えた頃には、
あたりは暗くなり星が5個またたいていました。
「ふぅー。」ジャックのため息が、あきらめの声に聞こえました。
と。遠くからひとりのペンギンが、ものすごい勢いで氷の上をすべってきます。
「きゃーーー止まらない!」
ジャックは目をつぶって、ペンギンを受け止めました。
ふたりは抱き合ったまま、ゴロゴロと氷の上に転がりました。
目をあけると、なんとサリーではありませんか。
ジャックの胸は高鳴りました。
「ねぇ。ここで踊らない?」
サリーは黒くて薄い手を差し出しています。
「あなたが誘ってくれないから、わざとぶつかったのよ。」
サリーの小さなくちばしは、ほんのり赤くなっていました。
大きな月はふたりをじゃましないように、伏し目がちで氷の上を照らしています。
ジャックは震えながらサリーの手をとりました。
宇宙の夜に、ふたりだけのダンスパーティがはじまりました。
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シラスアキコ(コラムニスト)
クリエイティブユニット「color/カラー」(www.color-81.com)の
コピーライター・クリエイティブディレクターとして活動。
「モノ語りのあるモノづくり」を大切に、
企業のブランディングから商品開発、プロダクトデザインの企画、
広告制作、ラジオCMなどを手がける。
60年代の日本映画とフランス映画、赤ワインが好物。
*レモンエアラインは、毎週水曜日に出航です。
こころがふうわりと浮遊する軽やかなじかんを、お楽しみください。*