クローゼット・ストーリー/レモンエアライン0807便
2013.08.07
黒いタートルネックセーターは、
夏のあいだグローゼットの引き出しの中で、
こんこんと眠り続けます。
そして時おり目を覚ますと、
あることを空想するのです。
それは、夏祭りにいくこと。
夏祭り…叶わぬ夢だとわかっているのに、
どうしても憧れてしまう。
黒いタートルネックは、
夏を満喫している軽やかなTシャツたちがうらやましかった。
黒いタートルネックは、いつかの雪の降る夜を思い出す。
寒がりな彼女を、首からすっぽりと温めるのは私しかいない。
彼から告白をされた時に、彼女は小さく震えていたっけ。
あと3ヶ月もすれば、私の出番がくる。
そのために、今はゆっくり身体を休めておこう。
私には私の役割があるのだから。
黒いタートルネックはゆっくり目をとじて、
また深い眠りへと帰っていった。
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シラスアキコ(コラムニスト)
クリエイティブユニット「color/カラー」(www.color-81.com)の
コピーライター・クリエイティブディレクターとして活動。
「モノ語りのあるモノづくり」を大切に、
企業のブランディングから商品開発、プロダクトデザインの企画、
広告制作、ラジオCMなどを手がける。
60年代の日本映画とフランス映画、赤ワインが好物。
*レモンエアラインは、毎週水曜日に出航です。
こころがふうわりと浮遊する軽やかなじかんを、お楽しみください。*