万年筆の伝言/レモンエアライン0115便
2014.01.15
万年筆の売り場には、
試し書きをするための白いメモ帳が置いてある。
前髪の長い女性は、黒い万年筆を握りしめ、
ため息とともに「ふーーーっ」という文字を書いた。
10分ほどたってから、モッズコートを着込んだ少年が、
「ふーーーっ」の隣に「はーーーっ」と書いた。
1時間ほどたってから、真っ赤なマフラーを巻いた女の子が、
「はーーーっ」の下に「いいことあるさーーー」と書いた。
次の日の朝、紺色のスーツの男性が
「いいことあるさーーー」の文字から矢印をつけて、
「彼女ができた!」と書いた。
お昼過ぎ、昨日の前髪の長い女性がメモ帳の前に立っていた。
「彼女ができた!」という文字を見て、もうため息はつなかった。
万年筆をとり「わたしも告白しようかな」と書いた。
そしてこのメモ帳を、
売り場担当者が捨てられずに困っている。
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◎レモンエアラインが本になりました。
コチラのスペシャルサイトもごらんくださいませ。http://lemonairline.com/
シラスアキコ(文筆家)
クリエイティブユニット「color/カラー」(www.color-81.com)の
コピーライター・クリエイティブディレクターとして活動。
「モノ語りのあるモノづくり」を大切に、
企業のブランディングから商品開発、プロダクトデザインの企画、
広告制作、ラジオCMなどを手がける。
60年代の日本映画とフランス映画、赤ワインが好物。
*レモンエアラインは、毎週水曜日に出航です。
こころがふうわりと浮遊する軽やかなじかんを、お楽しみください。*