「深呼吸の必要」
2019.11.08
先日のFlussでは、小さな感動がいくつもあって
いまも時折そのことを思い出します。
長田弘さんの詩集を朗読してくださったのは @__yonaga__
リハーサルから本番と、聴いているうちにも
こころに届くことばがあって
思わずぽちっと、手元に置きたくなりました。
長田弘詩集「深呼吸の必要」より
隠れんぼう
雨空を、すばらしい青空にする。角砂糖を、空から堕ちてきた星のカケラに変える。五本の指を五本の色鉛筆にして、風の色、日の色をすっかり描きかえる。庭にチョコレートの木を植える。どんなありえないことだって、幼いきみは、遊びでできた。そうおもうだけで、きみは誰にでもなれた。左官屋にだって、鷹匠にだって。「ハートのジャック」にだって。できないことができた。難しいことだって、簡単だった。遊びでほんとうに難しいのは、ただ一つだ。遊びを終わらせること。どんなにたのしくたって、遊びはほんとうは、とても怖しいのだ。きみの幼友達の一人は、遊びの終わらせかたを知らなかった。日の暮れの隠れんぼう。その子は、おおきな銀杏の木の幹の後ろに、隠れた。それきり、二どと姿をみせなかった。銀杏の木の後ろには、いまでもきみの幼友達が一人、隠れている。