「日本文学は恋ばかりを書いてきた。」
2017.06.01
いま読んでいる「教科書で出会った古文・漢文100」のあとがきには、
監修者 石原千秋さんがこう書いています。
まだ大学生だった頃だから、もう四十年ほども前の話である。
「中国文学は天下国家を論じてきたが、日本文学は恋ばかり書いてきた。」と
いうような言葉を、よく読んだし、耳にもした。
このアンソロジーを読んで、まさにそうだったのだという感を強くした。
もっとも「教科書」に収録する文章には、たとえば中世の残酷な説話などは避けるといった
教育上の配慮もあるから、それがこういう傾向を作り出し、
やがては一般論になったのかもしれない。
収録されているのは
古事記、万葉集からはじまって
竹取物語、伊勢物語、古今和歌集、土佐日記、
もちろん、枕草子も源氏物語もありました。
漢文は、論語、孟子、筍子は言うに及ばず
勧酒、月夜、春望、三国志などなど
なにしろ100選あるのだから
たいそう読み応えのある一冊でございます。
そう言えば、高校生で初めて触れた漢文の、
読み下しを音読みするのが好きだった。
意味を理解しないまま、その音のリズムが心地よかったのでしょう。
少し前に幼子を餓死させてしまい、
いまは幽閉されて、遠く疎開先の家族と生き別れた折に生まれた詩。
ひとの一生の儚さを想う。
春望 杜甫
国 破れて 山河在り
城 春にして 草木深し
時に感じては 花にも涙をそそぎ
別れを恨んでは 鳥にも心を驚かす
烽火 山月に連なり
家書 万全に抵たる
白頭 掻けば 更に短く
渾べて簪に勝えざらんと欲す