「たましいの世話」
2021.01.26
『語られざる苦しみ』
苦しいことがあったら
いつでも
何でも
いうことにしよう
そう
語り合っていたから
ぼくは 君に
何でも話した
でも 君がぼくに
苦しい
ということは
なかった
苦しくないの と
ある日 だずねると
君は
こういった
わたしも苦しい でも
この苦しみをあなたが
背負うとおもうと
もっと苦しい
若松英輔著「たましいの世話」より
若松英輔さんのあたらしい詩集を読んでいます。
なかでも、この詩がいちばん、おなかの底に届きました。
きっと“わたし”は、心の底から“あなた”のことを愛しているのでしょう。
若松英輔著「かなしみの秘儀」を思い返すと、まるで奥さまの言葉のように読めてきます。
―腹水だけでなく、胸にも水がたまり、呼吸すら困難になるときもあった。激しい苦痛がともなっていいるのは明らかだった。しかし、彼女は苦しみを訴えない。夫は「何でも言っていいんだよ。苦しいときはそう言ってね」と話した。すると彼女は、しばらくだまってこう言った。「ありがとう。でもいいの。私が感じていることをそのまま口にしたら、聞いたあなたはきっと、耐えられないとおもうから」(中略)「彼女」とは、五年前に逝った私の妻である。